伝統的な絨毯生産への回帰をめざして
DOBAG (Doğal Boya Araştırma Geliştirme天然染料研究開発)プロジェクト
(http://dobag.blogspot.com/およびWikipediaより)
翻訳 Izumi n Balkir
伝統的織物の衰退
DOBAG(天然染料研究開発)プロジェクトは、1981年にイスタンブール(トルコ共和国)のマルマラ大学との共同プロジェクトとして設立されました。
マルマラ大学芸術学部は、このプロジェクトにおいて、19世紀初頭から絨毯に使われはじめた合成染料の使用をやめる決定を下します。
同時に、絨毯に混じっていた外国のモチーフを取り除いて伝統的な紋様に回帰することで、絨毯生産の衰退に歯止めを掛けました。
このころ他のすべての絨毯生産国と同様、アナトリア地方にも合成染料が押し付けられ、しだいに伝統的な染色方法が忘れられつつありました。
新しい染料を使うのは容易でしたが、たいていは古いカーペットの豊かで調和のとれた色ではなく、固く見苦しいものになっていました。
これにはすぐに解決策が見つかりましたが、その一方で、羊毛に損傷を与える方法が頻繁に使用されはじめます。この製法は退色、摩耗が激しく、カーペットの寿命を縮めるものでした。
DOBAGプロジェクトのはじまり
その後1981年になると応用美術学校の繊維部門で、150年前のように良質なカーペットの製造をめざして自然染色に戻り、伝統的なパターンを使用することが決定されます。プロジェクトはチャナッカレ-アイワジュック(Canakkale-Ayvacik)で始まりました。
当時、応用美術学校の校長だったエロル・エティ(Erol Eti)は、ドイツ国家開発局の専門家の1人であるハラルド・ボーマー(Harald Böhmer)と契約を結びます。
ボーマー博士は、当時イスタンブールドイツ高等学校で生物学、化学、物理学の教師として働くかたわらで長年にわたって天然染料の研究に取り組んでいました。
博士の指導により、村の人々が家庭で応用できるように自然染色法が改良、調整されます。
[Wikipediaより: 1982年にボーマー が、古いカーペットのウールと既知の植物の両方を使用したサンプルのクロマトグラムを比較することにより、天然染料の成分を特定し、その後実験的な染色方法が再現されました。]
伝統を支える女性
伝統的な染色技法の最初のデモンストレーションは、チャナッカレ県のアイワジュック地域のいくつかの村で行われました。
この地域が選ばれた理由は、長く続く絨毯織りの伝統を伝えていたためです。
その後、プロジェクトの別支部がマニサ県ベルガマ南方のユントゥダー地方に誕生。
ここでは、DOBAGプロジェクトのもとトルコ初の女性協同組合が設立されています。
またDOBAGプロジェクトの一環として、マルマラ大学GESTAG(伝統手工芸品およびデザイン研究応用センター)では、アイワジュック地域とユントゥダー地域の女性協同組合が100%天然染色の羊毛と伝統的なパターンの絨毯とキリムを生産しています。
DOBAGプロジェクトは村を育成し、女性を解放し、手に職を持たせ、社会的地位の変化を生み出しました。
協同組合のメンバーである村の女性は、マルマラ大学芸術学部による教育と監督のもと純粋なウールと天然染料を使って伝統的なパターンを織り上げています。
こうして作られたDOBAG絨毯の輸出は、1981年から続いています。
確かな品質と伝統を海外へ
DOBAGプロジェクトでは、各織工は織工労働者であるだけでなく組合員でもあり、組合のなかで管理と監督を行い、会計年度の終わりには組合員として利益を分配されます。
DOBAGカーペットはすべて輸出用に製造されています。
最大の市場はヨーロッパ、アメリカ、日本、カナダ、オーストラリアです。
プロジェクトで生産されたカーペットのうち、地域の伝統的なモチーフ、自然染色された最高品質の素材で織られたもののみが認められ、大学が実施する検査を受けて品質証明書が与えられます。
[Wikipediaより: DOBAGの絨毯には識別のために革のタグとシールが付くほか、絨毯を織った織工、織られた村または地域の名前を示す証明書が付いています。
DOBAG絨毯の織り手は結び目の数に基づいて対価が支払われ、公正な賃金システムが保証されています。 絨毯が販売されると織工にはただちに追加のボーナスが支給されます。
販売部門は、仲介業者を回避するために、絨毯を認定ディーラーに直接輸出しています。]
DOBAGがもたらしたもの
1983年には、デザインパターンおよび技術コンサルタントとして、シェリフェ・アトゥルハン(Şerife Atlıhan)がDOBAGチームに参加。共同組合による生産を継続的に監督するよう任命されました。
ムスタファ・アスリエル(Mustafa Aslier)は、2期にわたる学部長の任期期間中プロジェクトの発展に貢献しました。
DOBAGプロジェクトを世界に紹介するため、1985年、1991年、1997年、2002年にイスタンブール、アイワジュック、ユントゥダーの各地でそれぞれ第1回、第2回、第3回、第4回の国際DOBAGシンポジウムが開催されています。
村の女性たちによって織られた我が国(トルコ)の絨毯とキリムは、いまや特別なラベルを付けて輸出され、その伝統的なモチーフによって国際的にも認められています。
マルマラ大学美術学部繊維学科の教員たちは、長年にわたり農村女性に伝統的なトルコのモチーフと天然染料を使った絨毯やキリムの織り方を指導してきました。それが今では我が国の芸術分野で大きな成功を収め、国際的にも大きな名声をもたらしています。
私たちの国に信じられないほどの富と名声を提供するこのプロジェクトにより、私たちの村の女性は経済的な自由を得ただけでなく、自由に旅行し、海外で織物工芸を行い、海外で講義をする機会を得ました。
さらにもうひとつの重要な側面として、農村女性の経済的および社会的地位を変え、家父長制の秩序の中で発言権を女性に与えたことも見逃せません。
比類なき成果
DOBAGプロジェクトは、技術的な面においてはトルコのカーペット織りの伝統を復活させ、いっぽう社会的レベルでは村の女性に対する継続的な収入源の提供、ひいてはそれによる都市化の抑制を目的としています。
著名な研究者ジョン・トンプソンは、ロンドンで発行されている『Halı 』誌の記事で、DOBAGについて次のように述べています。
これは、ヨーロッパから化学染料が最初に輸入されてから1世紀以上を経たのちに、アナトリアの絨毯で再び天然染料が使用されるという、並外れた話です。
最初のアイデアはすぐに社会的にも、また芸術と技術の面でも重要な実験へと変化し、発展しました。
過去に類を見ないこのプロジェクト(DOBAG)は絨毯市場の性質をも変えることに成功し、数世代に渡る伝統の断絶を乗り越えて、天然染色と伝統的文様を兼ね備えた新しい絨毯をふたたび購入できるようになったのです。
プロジェクトは農民の生活に繁栄をもたらしましたが、彼らのライフスタイルを損なうことはありませんでした。